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第9回目の大地の芸術祭。第1回より24年経ったことが感慨深い。

地元で芸術祭の会期を知らせる電光掲示板。

計画策定に関わり、芸術祭にも建築で参加し、この30年近く、繰り返し訪れていると、アートの変遷だけでなく、場の変化にも敏感になります。今年は、その変化量が急に大きくなった感じがしました。

まずは、気候変動。8月末、一緒に回った友人たちが口々に言うのが、「妻有はこんなに暑かった?。」フェーン現象で昼間は暑くても、夜は涼しかったはずなのに、今年は、昼の暑さも例年以上、夜も蒸し蒸しとした暑さが消えません。

春のことですが、妻有でいちばん美しいと思っていた棚田の耕作を、持ち主と一緒に再生を計画していたところ、田植えの時期、すでに貯水池に水が少なく、生計を立てる農家が耕作面積を減らす中、他所者が水を使う訳にも行かず、今年は中止しました。日本有数の豪雪地なのに、昨冬から雪が減り、雪解け水が支えた稲作に支障が出る状況。

そして、高齢化に人口減少。芸術祭で回ると、耕作放棄で草に埋もれた田や、空き家が取り壊されて寂しくなった集落が、加速度的に増えている印象。

最初に妻有に入った90年代半ば、8万人いた人口が、現在6万人。25%減少すれば当然ですが、その一方で、驚きは、新潟県全体の観光客数が、1995年比で2022年は68%まで減少し、スキーバブルの地、湯沢町は28%まで激減したのに対して、妻有は、123%と増加していること。課題が山積みの中山間地での観光客数増加は、まさに芸術祭効果。場所によっては、飽和点を超えるほどで、芸術祭の顔となった清津峡トンネルは、週末は予約のみ、予約不要な平日は大渋滞だったり、昼食御用達のへぎそばの名店、小嶋屋総本店は、客が多すぎて週末は団体客お断り。夏休みをすぎた平日にも、大型バスで、外国人観光客のツアーが行われるほどになっていました。バブル期の開発から外れ、農風景や風情ある集落、古い民俗が残る妻有の価値を、芸術祭が見い出し、アートとともに発信を続けたことで、衰退を反転できなくても、速度を緩やかにし、交流人口で地域を支える仕掛けに成長していました。

次の25年、加速度が付いた高齢化と、四半世紀前には考えもしなかった気候変動で、妻有が大きく姿を変えることは確実。その中で、どう芸術祭が地域に関わって行くのか、他を先行して来た大地の芸術祭が、先駆けとして道を開くことを期待します。

ということで、大地の芸術祭を、振り返りつつ紹介してみます。2024年の大地の芸術祭は会期が長く、11月10日まで。妻有で、中山間地、芸術祭、そして、日本の来し方行末に思いを巡らすのはいかが?。

2024      大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024の作品

2024      景山健 「HERE-UPON ここにおいて 依り代」 
高靇神社の境内の杉林の、生きている杉の木を利用し、杉の葉を重ねて酒林のようなドームをつくった。同じ場所での2022年の作品もすばらしかったが、この作品も、杉林の中央に、神の依り代のような焦点をつくっただけなのに、林全体を聖化する力を持っていた。高靇神社の境内全体のランドスケープもすばらしいのでお忘れなく。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      アントニー・ゴームリー 「MAN ROCK Ⅴ」 
高靇神社の景山健さんの作品の奥に設置された作品。2022年の大地の芸術祭では、この部分には、伝統的な依り代がつくられていた。そこに、小さな社がつくられ、その中央に置かれ、ゴームリーが信濃川から選んだ石には、石を抱きしめるゴームリー自身の身体の線が彫り込まれている。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      中﨑透 「32 Resting Stones/三二と休石」 
松之山の上川手集落の住民、村山休石さんと村山三二さんの二人が詠んだ俳句と、その妻や息子から聞いた話を元にした作品、二人の名前に因む32個の休んでいる石を、古い民家の中にインスタレーション。建物は、古い民家を、2009年に手塚貴晴+手塚由比さんが、「黎の家」として改修設計したもの。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      深澤孝史ほか 「アケヤマ -秋山郷立大赤沢小学校-」 
2021年に廃校になった大赤沢小学校を、秋山郷の民俗や信仰を学び、継承し、それを元に制作した作品を展示する場に改修。ここをベースに、さまざまなアーティスト、研究者が活動を行なって行く。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      衣川泰典 「石化する風景」 
京都精華大学が運営する旧枯木又小学校での展示作品。新潟県の川で採取した石灰岩を使って、枯木又の風景や植物の石版画をつくり、版面として利用した石は、施設に隣接する神社の境内に、石庭のようにインスタレーション。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      岩城和哉+東京電機大学岩城研究室 「段丘崖のため池」  
川西の新町新田地区にある錦鯉のための溜め池に設置された作品。宙に浮かぶドームと、池に浮くリングの2つのインスタレーションが、光にキラキラと美しい。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      久保寛子 「三ツ山のスフィンクス」 
旅人の生死を司るスフィンクス像を、周辺に宗教的な像が点在する川西の中心街近くに設置。スフィンクス像が、それぞれ個別に存在していた既存の像をつないで行く。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      アイシャ・エルクメン 「In and Out」  
松之山の湯山集落にある、かつて大工が住んでいた民家でのインスタレーション。家自体を白い金網で覆い、金網で覆った家の室内にある家財道具も、また白い金網で覆う。住み手がいなくなり薄らいで行く、家や、そこで営まれていた生活の存在を、再び立ち上らせる。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      マ・ヤンソン / MAD アーキテクツ 「野辺の泡」 
松代の室野集落に2016年に開館した中国ハウス。そこに、半透明の膜構造のドームが接続され、まわりの家やランドスケープとの間に、新しい関係を発生させる。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      瀬川葉子 「Saiyah #2.10」 
参加型の光のアート。回転するガラス板が、光を分光して、さまざまな色に分解され、来場者が、そこに、用意された分光ガラスの板を挟むと、さらに複雑に光が分解され、移り変わって行く。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      原倫太郎+原游ほか 「モネ船長と87日間の四角い冒険」 
越後妻有アートトリエンナーレ2024のメイン会場の一つ、キナーレの回廊を利用して行われたグループ展示。原倫太郎さんと原游さんがキュレーターとなって、11組のアーティストが参加。来場者参加型の作品も多く、子供や家族連れが楽しんでいた。(制作年 : 2024、2024年の会期中公開)
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2024      原広司+東京大学生産技術研究所 原研究室 「25の譜面台-様相論的都市の記号場」  
1995年に制作され、海外を巡回した作品の復元。現代の都市の様相を象徴するようなさまざまな光のサインが、25の譜面台の上に置かれ、点滅する。(制作年 : 1995・2024、2024年の会期中公開)
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みどりの家に設置されていた、3年おきの芸術祭の年の積雪量。左端が2012年、右端が2024年。2024年が極端に少ないのがわかる。

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参考文献
"越後妻有アートネックレス整備事業計画書"(アートフロントギャラリー,1999)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000"(越後妻有大地の芸術祭実行委員会,2000)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000"(越後妻有大地の芸術祭実行委員会,2001)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003 ガイドブック"(大地の芸術祭・花の道実行委員会東京事務局,2003)
"越後妻有アートトリエンナーレ2006 大地の芸術祭ガイドブックー美術手帖2006年7月号増刊"(美術出版社,2006)
"公式ガイドブック 大地の芸術祭アートをめぐる旅ガイドー美術手帖2009年8月号増刊"(美術出版社,2009)
"公式ガイドブック 大地の芸術祭アートをめぐる旅ガイドー美術手帖2009年8月号増刊"(美術出版社,2009)
"現代美術がムラを変えた 大地の芸術祭"(北川フラム,角川学芸出版,2010)
"美術は地域をひらく 大地の芸術祭10の思想"(北川フラム,現代企画,2014)
"公式ガイドブック 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015"(現代企画室,2015)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018 公式ガイドブック"(現代企画室,2018)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2022 公式ガイドブック"(現代企画室,2022)
"大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024 公式ガイドブック"(現代企画室,2024)
大地の芸術祭ウェブサイト
Echigo Tsumari Art Field Website
Wikipedia

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